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書評

盛山和夫著『年金問題の正しい考え方――福祉国家は持続可能か』中公新書2007.6.刊行

『東洋経済』2007.11.10, 133頁.

橋本努

 

 

 二〇五〇年。人口の四割以上が六五歳以上の高齢者になるとの予測がある。日本の年金制度ははたして持ちこたえることができるのか。そんな不安が専門家たちのあいだでも広がっている。

 年金制度を維持するためには、消費税を一五%にして基礎年金を支給すべきではないか。いまの賦課方式をやめて積立方式にすべきではないか。民営化してもよいのではないか。さまざまな議論がマスコミを賑わしているが、実効的な改革はやはり、いまの年金制度を改良しながら維持することだと著者は考える。

年金制度は、国防や治安と並ぶ重要な統治機能であって、国家は国民の支持を得るためにも、絶対に損をさせない仕組みを作る必要がある。本書はそのための理路を鮮やかに示した労作だ。年金制度が破綻する不安など、本書を読めばふき飛んでしまうだろう。

例えば現在、国民年金の未納率は三五・九%にも達しているが、しかし著者によれば、国民年金は基礎年金の一〇%程度にすぎず、国庫負担などを含めた年金収入全体の二・六%にすぎない。またもし未納者が年金を完納すると、今度は支給すべき年金が増えてしまい、余計に負担がかかる。制度的には例えば、一四%程度の高齢者が無年金の生活保護者になったほうが、年金制度に負担がかからない。だから未納は、制度の収支改善にとって本質的な問題ではないというわけだ。

 正しい年金制度の理念は、自己責任原則でも共同体的相互扶助でもなく、「現役時代の貢献度に応じた老後の権利」であり、これを国家が保障すべきというのが著者のリベラルな主張である。年金論議の新たな教科書となるべき一冊だ。

 

橋本努(北海道大准教授)